School Days



天才は、偏ってるって言うけど、偏り過ぎてて、当人は生きにくいのかもしれないな――――。




「あ…、俺だけ違うクラス。」
井沢は、掲示板に貼り出されたクラス発表を見て、思わず呟いた。

中学1年の春、修哲小からここ南葛中に編入した井沢・滝・来生・高杉達。
ドイツへサッカー留学した若林からの助言、
『全国小学生選抜大会で得点王になった、大空翼と一緒のチームの方が、個々のレベルアップに繋がるだろう。』
を受けて、四人仲良く南葛中に編入してきたのだ。

が、何とその四人中、井沢だけが1人別のクラスになってしまった。

「おい〜、ちょっとオレさみしいんだけど!」
「何、弱きになってるんだよ、天下の井沢君が。」
「そうだよ、何ぶってるんだよ!」
「いやいやいや、ここはもう修哲じゃないんだから!」


昔からライバル関係の修哲と南葛。その為、修哲小から南葛中に編入する者など、ほとんど皆無の為、井沢達にとっては完全にアウェイ状態である。


「それにオレ、実は結構人見知りするんだぜ。」
「知ってる知ってる。まぁ、最初だけだろお前が猫被ってるのなんて。」
「そうそう、その内、影でクラス牛耳ってんだろ。」
「影で牛耳るって、どんだけオレ黒いんだよ!?」

来生・滝に散々弄られた後、ようやく高杉がフォローを入れてくれた。

「あ、でも井沢、翼と石崎と一緒のクラスじゃないか。良かったじゃん!」
「…、あ、ほんとだ。」

南葛SCでチームメイトとなった石崎と翼。苦しい戦いを共に戦った仲間として、この2人に対しては既に仲間意識があり、
井沢としては、その2人の名前を聞いて幾分心が晴れた。
と、同時にあくまでサッカーをしている彼等の事しか知らなかったので、普段の生活での彼等がどんな風なのか、疑問が湧いた。


こうして井沢は、不安と好奇心を抱いて南葛中学に入学したのだった――――。




*********





「おう、翼。今日の朝、玄関で会った子覚えてるか?俺、スゲー好みでさ。」
「ごめん、石崎君。俺全然見てなかったよ。」
「なんでぇ〜、相変わらずサッカー以外の事に興味持たねぇなぁ。んじゃ、今日の数学の宿題やってきたか?オレ、すっかり忘れてて、答え映させてくれよ。」
「ごめん、石崎君。オレも昨日はロベルトがくれたノートをずっと読んでて、すっかり忘れてたよ。」
「なんでぇ〜、またロベルトノートかよ。まったくサッカーサッカーだなぁ。はぁ、また俺達、廊下に立たされる運命かぁ。」


(…会話のキャッチボールが成り立ってないんですけど、君達。)


石崎と翼の会話が否が応でも入ってくる。井沢はつい心の中で突っ込んでしまった。
何せクラスの席順は、あいうえお順で、井沢・石崎・大空、と見事に南葛SCのメンバーが並んでいるのだ。

「ということで、井沢〜。今日も答え映させてくれるよな?」

それを見越してだろう、決まってこちらに話を振ってくる。

「…。」

「いいとも〜!…て答えが帰って来ねぇけど?井沢先生〜?お眠ですか〜?」

「お前、いい加減にしろよ!?入学して一ヶ月、宿題やってきた試しが無ぇじゃん!
 それでよく今まで生きて来れたもんだなぁ?」

「やべ〜、井沢先生、今日は、ご機嫌斜めだぜ。翼、お前からもお願いしねぇと。」
「うん、ごめん井沢君。悪いんだけど石崎君に宿題映させてやってくれないかな?俺はいいから。」
「俺はいいって…、それじゃお前だけ怒られるんだぞ?翼。」
「俺はいいんだよ、サッカーが出来ればそれでいいんだ。」
「翼、お前って奴は…。ううっ」

石崎は、泣く真似をしながら、うらめしそうに井沢を見る。

「…なんで、オレが悪い様な展開になるんだ…。」

こうして、2人の小芝居にまんまとはめられた井沢は、今日も自分のノートを広げてしまったのだった。




翼と石崎と一緒のクラスになって一ヶ月―――――。


彼等の事がだいぶ分かってきた。


石崎に対しては、大方予想通り。

勉強は出来ないがクラスのムードメーカー的な存在。しょっちゅう先生には怒られるものの、持ち前のガッツと猿知恵で
ピンチを潜り抜けていく頼もしい奴だ。

こいつは何処でも生きていけるだろうな。

井沢は内心、石崎に対して尊敬の念を抱くようになっていた。



一方の翼―――――。


正直、石崎とはまったくの逆。


こいつは大丈夫なんだろうか?



と、彼の将来が心配になってしまった。


サッカーにおいては、無敵状態な彼だが、サッカー以外の事となるとまるで駄目。
というか、基本サッカー以外の事に関してまったく興味を示さないのだ。

先程の石崎との会話もそうだった。

これで、コミュニケーションを取れなんて、無理がある。

しかし、幸いサッカー王国静岡の南葛市は、大変サッカーが盛んな地域なので、サッカーの話題で盛り上がる事が多く、現在はこのクラスに馴染んでいた。



(オレって翼に甘いのかな…。)


ノートを書き写す翼の頭を見ながら、溜息をついた。


(でも、オレがノート見せなかったら、それはそれで構わないんだろうな…。)




井沢の頭の中に、入学して1番最初の授業での事件が蘇る――――。



教師に問題を当てられた翼は、教師の話を聞いていなかった。
どうして聞いてなかったのか?と聞かれた翼はこう答えた。

「サッカーの勉強をしていたからです。」

と。

そしてロベルトノートを高々と掲げ、教師を絶句させたのだった。
(教師だけでなく、井沢も開いた口が塞がらなかった。)


その後、翼はその教師に職員室に呼ばれ、
サッカー以外の事もちゃんとやらないと、世の中生きて行けないぞ、と論されていた。

が、イマイチ理解されなかったようで、その教師は最終的に同じサッカー部の自分たちに、翼の面倒を見てやってくれ、
と頭を下げてきたのだった。





そんな事もあり、井沢は翼の事が放って置けなかった。
正直、ノートを写させたのも、翼の為だ。


これも長男として生まれた性か。


井沢は、ダメだと思いながらも、ついつい手助けしてしまう自分に溜息をついた。


(これ、オレの性格分かっててやってたら、相当やり手だな。)


目の前の翼のつむじを、グリグリと指で押してやった。


「翼、お前明日は便秘決定だな。」
「え〜、ヒドイよ井沢君。」



修哲小から編入して一ヶ月。
井沢は、すっかり南葛中に溶け込んでいた――――。



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修哲から南葛に移った井沢君が、南葛に馴染むまでのお話です。
面倒見が良い井沢君が好きです(^^)

つづく